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「…………で、ジェイ『さん』、」
サリヴァンは、突然何事もなかったように、ジェイに笑い掛けた。同時に、酒場のドアが勢いよく来客を告げ、数名の男たちがガヤガヤと入ってくる。
「その眼鏡の方についてはどうするのですか?」
サリヴァンの突然の敬語にも、やはりジェイは動じない。
仕事柄見馴れた光景でもある。
「うーん……どーしよーかな」
サリヴァンは、再びグラスを磨き始めた。ジェイは僅かに眉を寄せ、わざとらしく首を傾げてみせる。
「結局オレは騙されてたってコトでしょ。もう会わなくてもいいかな……でも、やっぱりちょっと会ってみたい気もするし」
ジェイも通常通りの声量で応じた。
「……そうですか」
「よぉ、サリヴァン!」
サリヴァンが2、3度頷いたその時、入ってきた客のひとりが、ジェイとサリヴァンの会話にずかずかと入ってきた。
トリノ同様体格は良いが、どちらかと言えば山男のような格好をしている。
サリヴァンは戸棚から大きめのジョッキを手に取り、慣れた手つきでビールを注ぐと、その男の前に置いてニコリと微笑んだ。
「おかえりなさいませ、ウッドボウさん。今日は随分早い戻りですね」
「あぁ、さんきゅな。今日は渓谷側の木を切るつもりだったんだが、どーもあの辺はここ最近、魔物が騒がしくてな」
ウッドボウは会釈をしてビールジョッキを掴むと、そう一気に捲し立ててからビールを煽り、口髭についた泡を乱暴に拭った。
「魔物が、ですか?」
サリヴァンは、足元の箱から肉の塊を取り出すと、網の上に乗せて焼き始めた。ジュウジュウと肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
あぁそうだ、と、ウッドボウは鞣し革の手袋を外した。
「もしかしたら、誰かが迷いの森に入っていったのかもしれないってことになってな。仕事は中止にして、他のやつらと町内回ってたんだよ」
「おや。それで、皆さん無事でしたか?」
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