第2章 【霧の町】

12/36
前へ
/167ページ
次へ
「とりあえず、どこに泊まってるかだけでも調べとくか」 酒場を出たジェイは、夕闇の迫る石畳の街道を歩いていた。 「にしても、相変わらず凄い霧だな。こりゃ誰も外を歩きたがらないわけだ」 霧は先程よりも相当濃くなったようで、服も湿り気を帯びてきた。 酒場に入る前は何とか前を確認することができたが、こうなってしまえば、建物の壁を伝って宿に戻るしかない。 町の人間は馴れたもので、この霧が出る前に帰宅、あるいは酒場に籠るのだ。 この町の酒場は特殊で、大抵の酒場には、簡単な寝具とシャワールームが設けられた小屋が併設されており、霧が晴れる翌朝まで、そこで眠ることができた。 今日町を出るつもりで酒場を出たが、この様子だと、大人しく酒場に籠っていた方が良かったかもしれない。 「酒場を出て、ここが武器屋。あとは右に曲がって3件目……っと」 ジェイは、南門に近い宿を拠点にしていた。 この町には、南門ともうひとつ、東側にも門が作られている。 地図上では、陸路を東進するだけなら東門を出た方が早いように見えるのだが、この辺の地理を知る人間は、絶対に東門を通ることは無い。 東門を出てしばらく進むと、年中霧で覆われている渓谷があった。だが、皆が渓谷を忌避する理由は、霧のせいだけではなかった。 その渓谷には、行けば必ず「夜になる場所」があったのだった。 いくら時間を変えて行ってみても、その辺りを通る頃には、日が沈み、全く何も見えなくなるのだ。 霧によって視界が悪くなる上に日が射さないその場所では、地盤による影響か、方位磁石も使えなかった。 強力な結界魔法が施されているという噂だが、実際のところ、誰が、いつ、何のためにかけた魔法なのかは分からなかった。 周囲には凶悪な魔物も多く、町の人間は当然のこと、手練れの旅人でさえ、東側の街道は滅多に通らない。 東門の辺りに大きめの宿があったから、魔導師たちはそこに泊まっているかもしれない。とりあえず、一度自分の宿に戻って身仕度を整えなければ。 ジェイは、武器屋の角を曲がり、細い路地へと入った。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加