47人が本棚に入れています
本棚に追加
「とりあえず、どこに泊まってるかだけでも調べとくか」
酒場を出たジェイは、夕闇の迫る石畳の街道を歩いていた。
「にしても、相変わらず凄い霧だな。こりゃ誰も外を歩きたがらないわけだ」
霧は先程よりも相当濃くなったようで、服も湿り気を帯びてきた。
酒場に入る前は何とか前を確認することができたが、こうなってしまえば、建物の壁を伝って宿に戻るしかない。
町の人間は馴れたもので、この霧が出る前に帰宅、あるいは酒場に籠るのだ。
この町の酒場は特殊で、大抵の酒場には、簡単な寝具とシャワールームが設けられた小屋が併設されており、霧が晴れる翌朝まで、そこで眠ることができた。
今日町を出るつもりで酒場を出たが、この様子だと、大人しく酒場に籠っていた方が良かったかもしれない。
「酒場を出て、ここが武器屋。あとは右に曲がって3件目……っと」
ジェイは、南門に近い宿を拠点にしていた。
この町には、南門ともうひとつ、東側にも門が作られている。
地図上では、陸路を東進するだけなら東門を出た方が早いように見えるのだが、この辺の地理を知る人間は、絶対に東門を通ることは無い。
東門を出てしばらく進むと、年中霧で覆われている渓谷があった。だが、皆が渓谷を忌避する理由は、霧のせいだけではなかった。
その渓谷には、行けば必ず「夜になる場所」があったのだった。
いくら時間を変えて行ってみても、その辺りを通る頃には、日が沈み、全く何も見えなくなるのだ。
霧によって視界が悪くなる上に日が射さないその場所では、地盤による影響か、方位磁石も使えなかった。
強力な結界魔法が施されているという噂だが、実際のところ、誰が、いつ、何のためにかけた魔法なのかは分からなかった。
周囲には凶悪な魔物も多く、町の人間は当然のこと、手練れの旅人でさえ、東側の街道は滅多に通らない。
東門の辺りに大きめの宿があったから、魔導師たちはそこに泊まっているかもしれない。とりあえず、一度自分の宿に戻って身仕度を整えなければ。
ジェイは、武器屋の角を曲がり、細い路地へと入った。
最初のコメントを投稿しよう!