第1章

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妻は中々の拘りがある方だ。 私の服、妻の服が違う様に、スリッパも私の物と妻の物を分けている。 私のが青で、妻のが赤。 そして客用が緑だ。 昔から畳生活だった私にはスリッパを履く習慣はなく、スリッパをベッドの脇やトイレのドアの前に置き忘れてしまっていたが、仕事から帰ると必ず玄関に揃っていた。 「貴方のスリッパはいつも迷子ね」 そう言った妻は笑顔だった。 ※※※※ やがて、息子が産まれた。 つたい歩きが始まる頃には、水色のスリッパが増えた。 スリッパが増えると同時に、私の青いスリッパは藍色に近い濃い青色に替わった。 この頃には、私の足には常にスリッパが履かれていた。 妻の努力でも私の努力でもない。 可愛い息子の遊び食いのせいだ。 テーブルの周りにニンジンが落ちていたり、廊下でグリンピースを踏んだり。 どんなに妻が掃除機と苦戦していても、可愛い笑顔で味噌汁に両手を入れる息子には敵わなかった。 スリッパは生活必需品になっていた。 ※※※※ 息子が成長すると共に、水色のスリッパのサイズは大きくなった。 青色のスリッパよりも2周り大きくなる頃、私の楽しみは息子と一緒に晩酌をすることになっていた。 そして、いつの間にか「パパ」でなく「オヤジ」と呼ばれて返事をする自分がいた。
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