わたぼうし

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綾音のぼうしを見て、友達はみんな、うらやましがりました。 綾音自身、とても気に入ってしまい、 もう返したくないと思ってしまいました。 「わたしのぼうしを、代わりにあげよう。 きっと、見つけてくれているはずだよね」   綾音は勝手に決めると、わざと遠回りをして帰り、 ぼうしを返しに行きませんでした。   次の日も、また次の日も、綾音は女の子の白いぼうしをかぶって、 学校へ行きました。 大変なことなんて、なにもおきません。 「あんなこと言って、なんにもおきないじゃない」   綾音はもう、すっかり女の子の言葉を忘れてしまいました。 なんにちもたつと、道ばたの雪はどんどん消えていきました。 女の子のふわふわなぼうしも、ちょっとずつちいさくなっていきます。 そして、綾音のからだも、なんだかちいさくなっているような気がしました。   最初はスカートが、ゆるくなりました。 次はシャツが、コートがゆるくなります。 食べても食べても、どんどんからだが細く、細くなるのです。   道ばたの雪も、白いぼうしも、もうほとんど消えかけたころ、 目の前に、あの女の子が現れました。 「ずいぶん、溶けてしまったのね」   女の子は、とても悲しそうな目をしていました。 「これはあなたのせいなの? ぼうしを返さなかったから?」   綾音は、細い声で女の子に問いかけました。 本当は、もっと強い声で言いたかったのですが、弱い声しか出ないのです。   女の子は、ふるりと首を振りました。 「わたしのせいじゃないわ。あなたが、 わたしのぼうしを返してくれなかったから」 「返すわ。返すから、わたしを元に戻して」   そうしている間にも、綾音のからだは、ますます細くなっていきます。 女の子は強く、首を横に振りました。 「もう遅いのよ。だってあなたは、雪の人形になってしまったんだもの」   暖かな日差しが、綾音のからだを包みます。   綾音はぽつんと、庭のはしへ、立っていました。 ぽたぽたと、ぽたぽたと、からだが溶けていきます。   今日の暖かなお日さまに、綾音のからだは全て溶けてしまうでしょう。   女の子は、ちいさくなった雪のかけらに、 綾音のなくした綾音のぼうしをかぶせると、 どこへともなく消えてしまいました。   おしまい
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