わたぼうし

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わたぼうし

珍しく、雪のたくさん降った、翌朝。   綾音は、冬の始めに買ってもらった白いぼうしをかぶって、学校へ急ぎました。   お気に入りのぼうしは、なんどもかぶっているせいで、 ちょっとくたびれかけています。   道路も屋根も生け垣も、周り一面、まっ白な雪が積もっていました。   綾音は足あとのない、真新しい場所を選んで、さくさくと歩きました。   ちいさな松林を抜けた時です。   突然、強い風が吹いて、綾音のぼうしを吹き飛ばしました。 手を伸ばしましたが、白いぼうしは白い雪に隠れてしまい、 どうしても見つかりません。 「困ったなぁ」   急がないと、学校に遅れてしまいます。   それでも、綾音はあきらめきれずに、辺りをきょろきょろと探し回りました。   いくら探しても、ぼうしは白い景色に隠れてしまい、 どうしても見つけることができません。 「どうしたの?」   今にも泣き出しそうな綾音に、ひとりの女の子が声をかけました。   綾音より、わずかにちいさいくらいの年の女の子です。 透徹るように白い、きれいな肌していました。 「ぼうしが、なくなっちゃったの」 「じゃあ、これを貸してあげる」   女の子は自分のぼうしを、綾音に差し出しました。 「今日の夕方までに、わたしが探しておいてあげる。 だから必ず、そのぼうしは返してね」   まっ白な、やわらかいぼうしです。 ふわふわの手ざわりはとても気もちがよく、 綾音はひと目で気に入ってしまいました。 「絶対に返してね。じゃないと、大変なことになるから」   女の子は、強く念を押しました。 綾音はうんとうなずくと、急いでかけ出しました。 走ればなんとか、間に合いそうです。
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