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そう言った彼女の顔には、寂しさと少しのふてくされと少しの喜びが入り混じったような、複雑な感情がうつっていたのだった。そのときぼくは気づくべきだったんだ。彼女のとなりにいるべきなのはこんな風来坊の猫ではなく、彼女がほんとうにそばにいてほしいと願う人物であるということを…。彼女はそれから、妙に明るいそぶりを見せていたが、彼女がそんなことをするほんとうの理由など、ぼくには知る由もなかった。
「わー、あれが眼鏡橋やねんて!がっちりアーチ状に組み合っておるから、石と石がお互い支え合って、崩れへんようになっとるんやて!?」
彼女の視線は、眼鏡橋の隙間から覗かれるもっと遠くを見つめているようだった。
…もうすぐデジマ王国の城へとたどり着く。自分の使命を忘れてはならない。そう、もうお別れのときが迫っているのだ。しかし、そう思えば思うほど、彼女との別れがどうしても辛いものとなってゆく。ここは、心を押し殺て、耐えるしかない。ゆくなら今だ。
「あ、アカ!?急にどうしたんや?どこ行きよるん?」
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