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僕は砂漠の片隅(かたすみ)に在(あ)る洞窟(どうくつ)に棲(す)んでるの。
そこの砂漠は凄(すご)く暑いの。毎日、毎日乾(かわ)いた熱線(ねっせん)に灼(や)かれて、昼間は四十度を超えるのもザラなの。
この前なんか五十四度を記録したんだって。地球温暖化の影響かな?ヤんなっちゃうね。
でもね、僕が棲んでる洞窟は冷んやりとしているの。湿った冷気が辺りを静かに浸(ひた)していて、時折(ときおり)水の中にいるような錯覚を覚える。
岩肌に触れると手が濡(ぬ)れる。どうやらここは、地下水が通っているらしい。
ここは僕の他には誰もいないの。鼠(ねずみ)の一匹さえ。
飲み水は、洞窟を深くまで進んだところにあるの。そこに川みたいなところがある。
霧(きり)がかかってる上に薄暗いところだからね、そこの全体像は分からないの。川下からどどう、って水が勢いよく落ちる音がするから、きっとそこに滝が在るんだと思う。
落ちたらきっと戻れない。そう思うと怖くなるから、あまり行きたくないの。
お腹が空いたらね、ギターを弾くの。弦(げん)を爪弾(つまび)くと食べ物が出てくる、なんてお伽話(とぎばなし)みたいなことはないけれど、音に意識を向けてると不思議と空腹が誤魔化(ごまか)されるの。
僕はここで、人を待ってるの。大事で、大切で、大好きな人を。いつかまた会えると信じてね。
会えたらね、笑い合って、色んな話をしたいな。一緒に居たあの頃の思い出話とか、離れ離れになってしまってからの話とか、また顔を合わせて笑いあえるようになったこれからの話とか。
早く会いたいよ。寂しいよ。
まあ、全部ウソだけどね。
【了】
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