第5章~新たな一歩~

2/29
325人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
その週末の金曜日、仕事が終わるとスマホを肌身離さず持っていた。 何故なら金曜日はいつも彼が来る日だからだ。 ……たまに来ない事もあったけれど。 それでも来るかもしれない思いを捨てきれず私はスーパーに寄って買い物をした。 井野くんの好きな食べ物や、お洒落なつまみ、誕生日なのかってくらい買い出しをして家に帰った。 そして沢山料理を作ってラップを掛けて机に並べた。 みるみるうちに机の上が豪華になっていく。 だけど、それとは反対にお皿が一つ机に乗る度、私の不安は一層増していった。 「よしっ。出来た!来るにしてもまだ時間じゃないし……。」 そう言って一人でお皿に取り分けてビールを開けた。 「頂きます。」 パチンと手を合わせ一口、くちにした。 モグモグと噛むが、喉元を通っていかない。 ……本当は分かってる。 今日、井野くんは来ないってこと…。 飲み込めないつまみをビールで流し込んだ。 「井野くん……会いたいよ…。」 誕生日のような机の上とは真逆に私は1人膝を抱えて泣いていた。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!