第1章─記憶─

2/6
前へ
/6ページ
次へ
それは…暗い森の中。赤い目に、真っ黒な長い髪をなびかせながら一人の男がこちらに歩いてくる。息を潜めても心臓の音が聞こえそうなぐらい辺りは静まりかえっている。 (…怖いっ…) 少女は身を縮こませながら小刻みに震えている。 カサッ…カサッ… 足音が段々と近づいてくる。 (もうダメだ…) そう思った次の瞬間─── 目の前には…涙を流した吸血鬼がいた。 あれから10年後────。 少女はすっかり大人の女性になり 化粧品などを物色しながら考え込んでいる。 「はぁ~…面倒くさいなぁ」 メイクなんて面倒くさい。朝その作業がないだけで寝れる時間が何十分増えるだろうか。 「とりあえずいつもと同じ物を買お」 商品を手にとり、レジに並ぶ。自分の前にはタイトスカートを着た綺麗なお姉さんが金髪の髪を触りながらお金を渡している。 (私と全然違う…) 黒髪にシンプルなジーンズにパーカー。 何処にでもいるような格好をした自分を見ると恥ずかしくなる。 (…まぁ可愛い格好を見せる相手もいないんだけど。) 彼氏はいない。彼氏がいた事もあるが一年も経たずに別れてしまってそれ以来さっぱりだ。…というか…もう男に興味がない。男に興味がなくなるほど長い間彼氏がいない。 (女としてどうよ?) レジを済ませ店を出る。 (ま…こんな田舎じゃ出逢いもないよね) 辺りは田んぼが広がりトンボが飛び交っている。虫の音が耳元に居るかのようにうるさい音が聞こえてきて耳がおかしくなりそうだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加