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男は家臣が跪く濡れ縁の障子をからりと開いた。
「太郎、今日は天気も良いようじゃ。一つ、遠出でもして馬を駆けさせようかい」
「今日は馬を駆けさせるには丁度良い日和にございましょう」
男が中途半端に開けた障子を膝を付いて開け切った家臣が、軒先越しに春も押し迫った空を見上げた。
浮かぶ雲にはもはや冬の気配は無く、丸みを帯びて揺蕩(たゆた)っているように見える。
「されど」
家臣が空を見ていた顔を再び男に向け直した。
「お馬も宜しゅうございますが、実は早暁に父君、盛定様からお使いが参られまして、茶などを馳走致すゆえ京の伊勢屋敷に参られますようにとの言伝でございました」
「なに、京から使いが来たと」
「はっ」
「都からわざわざ備中まで茶の使いを寄越すとは。何かあったかな」
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