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「たまらねぇな! 10万ドルが一瞬だぜ!? 夢じゃねぇな? 嘘だったらただじゃおかねぇぞ、えっ、マジなの? ひゃっほー! なんだ簡単なんだな! やっぱ俺にはどデカイいかれたファンが付いていやがるぜベイベー!」
アレサンドロ・イズミが馬鹿みたいな語彙力で、馬鹿みたいに興奮しながら握りしめたウズラの両手を、感謝だか脅しだかわからないテンションで小一時間振り回し続けたのは、今から三日前のことだ。
ウズラが依頼人であるイズミのファンディングページをネットに公開したその?翌日早朝、目標としていた10万ドルの事業予算達成のアラートが鳴った。
「とにかくこれは異例づくしなんですよ。そもそも、あんな大雑把な事業計画で10万ドルなんて無茶苦茶だったんですから、それなのに」
「何言ってんだよー、そのページを作ったのはウズラちゃんじゃねぇかー」
何本目かのコロナビールをあおりながらイズミはご機嫌そうにウインクしてきた。
「ちゃん付けは止めてく、だ、さ、い。って、あっ!」チッ。舌打ちを隠すマナーもだんだんこの男には必要ないと思い始めていた。たとえクライアントであっても。
「飲み終わった瓶を川に捨てないで」
川下りの他の乗客はもうこちらを見ようともしない。ウズラたちなど存在しないかのようにめいめい楽しげに振舞っていた。
「恥ずかしいので止めてください。さもないと引き返しますよ!」
「ははは。お袋みたいなこと言うのやめようぜ。誰も気にしてないって」
こんなにも小狡そうな笑顔が似合う男にウズラは会ったことがない。
「ウズラちゃんにも小さくない仕事だろ? ビシッと決めようぜ!」
「決めるかどうかは、私が決めます」
「俺の金だろー」
イズミのことを乗客と同じように無視しようと決めたウズラは一人で船内のテラスへ戻った。
そう、私がちゃんと見極めないと、とウズラは気を引き締める。
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