ウィアード・インベスター

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欧米から爆発的な広がりを見せたクラウドファンディング。その理念を今回の案件は大きく覆している。 大昔の芸術家や起業家たちは、それぞれ自身から得られる華や金、将来の人脈などの見返りを商品に、大金持ちから金を募った。それらはパトロン制度といわれ、ルネッサンスの最盛期には、王侯貴族や大商人が自身の所蔵品として多くの才能を囲っていた。 必然的にその主従関係は明白だった。 芸術家や起業家にとって、資金はガソリンと同じ。無ければやりたいことができないし、あればあるほど突っ走れる。己の器から漏れ出ようとも、己の躯体が部品を撒き散らしながら崖を目指そうとも、その様をエンターテイメントの一つとして堪能する金主たちが飽きない限り、才能たちの生活は保証されていたものだった。 「時代は変わったの」 ウズラは入社式の社長の演説を思い出していた。 「大口の金主から小口の庶民投資家たちへ。そして、投資の対象としては、才能ではなく社会理念へ」 イズミの計画は散々だった。「曰く、俺には才能がある。俺には俺だけの舞台が必要だ。ちょうど親戚から引き継いだボロいライブハウスがある。これを超かっこよく改装して俺のスター誕生の瞬間をみんなと一緒に打ち上げたい」 誰がこんな自分勝手な計画にお金を出すと思ってるんですか!イズミの過去の自慢話を聞きながら、汚い字で書きなぐった事業計画を読み進めるうちにイライラが増幅されていった。理念や信念に大勢の投資家が共感してくれるんです、と一席ぶったばかりだというのにこの男は。 これはハズレだ、とウズラは頭を抱えどうやって話を断ろうかと考え始めたが、会社を「絶対決めてきます」とスタッフ全員に啖呵を切って出てきた手前、なんとか形に仕上がらないかと必死に事業の要素を頭の中でめまぐるしく組み立てる。 「高齢者も多いこの地域にとって、あなたのライブハウスは唯一の娯楽施設だった。そうですね?」 え、と不思議そうな顔をしたイズミをウズラは睨みつける。 「ですよね」 「え、まあ、そうかな。こんな田舎にゃライブハウスなんてなかなか無いし、昔は有名なグループも巡業の時に立ち寄ったって聞いたことが」 「ですよね! それを再興したい。地域活性のため! 古き良きマリアッチたちが訪れた聖地を復活させたい! 聖地巡礼最高! そうですよね!」 「おう、うん、そうだな! それでいこう」 そういうことになった。
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