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「本当に大丈夫なんでしょうね。絶対持ってきてないでしょうね!」
大丈夫だって、苦しい、な、だいじょうぶ、と必死に気道を確保しようと足掻くイズミの両目の奥をウズラは食い入るように見た。
アズ・サランが語ったことに嘘はないとウズラは感じていた。根拠はないが、女の勘ともいうべきものだった。
最初は狂ったように使いました。それこそ、車、船、飛行機、城、様々な上質な品々、時には人間をも。でもね、そのうち飽きて、金をそのままばら撒くようになったんです。文字通り、町中の塔のてっぺんから。
なんだかいい気分でね。正義の使者にでもなったかのように与えまくったんです。100ドルもあれば浮浪者一人が社会復帰するには十分の資金ですからね。僕はその日の暮らしすら立ち行かない人たちの区画の上空を小型飛行機で廻り、札束を撒き散らしました。上から見ると、天使の大群が街に向かって羽ばたいていくようにその頃はその光景を見ていました。
青年は宝石だらけの手でブランデーのグラスを掴むと、一気に中身を煽った。
そのお金に呪いがかかっていたというのがわかったのは、それから少ししてからでした。
久々に車のディーラーに電話した時のこと。担当者は店と共に街から去っていました。不幸な事故が続いたようだと後々風の噂で聞きました。そのうち船を買った業者も、ヘリを買った業者も、別荘を買った不動産会社も、従業員と共に無残な最期を遂げました。僕が空から札束をばらまいた貧民街は、火事と竜巻で消滅しました。遠縁の親戚が息子が難病だから治療費をくれと言ってきたことがありました。僕が断ると床に積んだ札束の一つを掴んで走り去りました。強盗じゃないのよ手術代と入院代があれば後は返すから、と病院からわざわざ電話をかけてきた親戚とその息子は、翌日心臓発作で同時刻に亡くなりました。このお金の呪いに気づき、離れようと必死になって逃げました。でも逃げ切れなかった。
そのうち私は、この呪いとどのように付き合っていけばいいのか考えるようになり、最終的に3週間の解呪の法を行うことでこの呪いの効果が無くなることを発見したのです。
あなた方へ振り込む時には呪いは完全に消えていますから、ご安心を。
あ、でもリビングに積んであるお金はまだ処置前のものですから、気をつけてくださいね。
ウズラは、この青年の皮の内側にいる星霜を重ねた魔術師の姿を見た気がした。
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