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「俺、もう何日かこっちにいるよ。お疲れさん。あいつとダチになれば一生食いっぱぐれないじゃん。あんたもういいよ、俺これだけで人生安泰だから、夢も安泰だからさ」最期まで軽薄だったイズミを張り倒して一人帰郷したウズラは、当時のこの体験を何年も忘れることはなかった。
政権が2度変わり、お金とインターネットに対する規制が歪曲され、理念・信念を応援することを信条とするウズラの会社も、大きな方向転換を余儀なくされた。
「お久しぶりです」ロマンスグレーの老紳士が、深々とお辞儀をして出迎えてくれた。
「4年ぶりですかな。ご主人は最近、ご友人とゲームをすることに熱心でして」
廊下を抜けてリビングに入ると、大画面テレビの前で必死にコントローラーを振り回す男二人が目に入った。
「あれ? ウズラちゃんじゃねぇ?」
「わっ、いま目を離すな、あっ」
ジャンジャーン、とサウンドロールが流れ、テレビ画面が真っ赤に染まる。
前にもまして軽薄さに磨きがかかったイズミと、前よりもどこか若返ったかのようなアズ・サランが、ふくれっ面をしてウズラを出迎えた。
「お久しぶりですね」
「おう、元気そうだな」
よく見ると二人とも汗だくだった。
「はい、ご無沙汰しております」ウズラはアズにだけ頭を下げる。「今日はお願いがあってお伺いしました」
「そうですか。何にせよ私のところへ再訪してくださる方は大歓迎ですよ」
青年はコントローラーを放り出し、老紳士からタオルを受け取ると汗をぬぐった。
「すみません、まだシャワーも浴びていませんで」
「おい、気をつけろ。この女は手が早いぞ、って痛っ!」
青年アズ・サランが笑う。自分の記憶と違う一面を見てウズラの心が少し揺れた。
「とりあえず食事にしましょう。お話を聞くのはそれからでよろしいですか?」
ウズラは黙って頷いた。
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