ウィアード・インベスター

7/11
前へ
/11ページ
次へ
「俺、もう何日かこっちにいるよ。お疲れさん。あいつとダチになれば一生食いっぱぐれないじゃん。あんたもういいよ、俺これだけで人生安泰だから、夢も安泰だからさ」最期まで軽薄だったイズミを張り倒して一人帰郷したウズラは、当時のこの体験を何年も忘れることはなかった。 政権が2度変わり、お金とインターネットに対する規制が歪曲され、理念・信念を応援することを信条とするウズラの会社も、大きな方向転換を余儀なくされた。 「お久しぶりです」ロマンスグレーの老紳士が、深々とお辞儀をして出迎えてくれた。 「4年ぶりですかな。ご主人は最近、ご友人とゲームをすることに熱心でして」 廊下を抜けてリビングに入ると、大画面テレビの前で必死にコントローラーを振り回す男二人が目に入った。 「あれ? ウズラちゃんじゃねぇ?」 「わっ、いま目を離すな、あっ」 ジャンジャーン、とサウンドロールが流れ、テレビ画面が真っ赤に染まる。 前にもまして軽薄さに磨きがかかったイズミと、前よりもどこか若返ったかのようなアズ・サランが、ふくれっ面をしてウズラを出迎えた。 「お久しぶりですね」 「おう、元気そうだな」 よく見ると二人とも汗だくだった。 「はい、ご無沙汰しております」ウズラはアズにだけ頭を下げる。「今日はお願いがあってお伺いしました」 「そうですか。何にせよ私のところへ再訪してくださる方は大歓迎ですよ」 青年はコントローラーを放り出し、老紳士からタオルを受け取ると汗をぬぐった。 「すみません、まだシャワーも浴びていませんで」 「おい、気をつけろ。この女は手が早いぞ、って痛っ!」 青年アズ・サランが笑う。自分の記憶と違う一面を見てウズラの心が少し揺れた。 「とりあえず食事にしましょう。お話を聞くのはそれからでよろしいですか?」 ウズラは黙って頷いた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加