ウィアード・インベスター

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「オグロファミリアってご存知ですか」 イズミが飲み物を吹き出す。「お前何言ってるんだよ」 「オグロファミリア。そうですね、聞いたことはありますよ。国境付近を根城にする薬物マフィアですね。構成員数万人とも言われている」 「お前何ちゅう名前を食事中に!」 「イズミ君の言葉もわからなくはない。とても血生臭い名前です」 「ごめんなさい。でも、その件で今日は来たんです」 「わかりました。女性がその名を口にするからにはよほどの事なのでしょう。食事はこれくらいにして、お話を聞きましょう」 老紳士が素早くテーブルの上を片付ける。 「俺は外していいのか?」 「ご自由に」 「つんけんするなよ、あんたにゃ感謝してるだぜ、ライブハウスの件。聞いてるぜ、地元の爺婆共も相当喜んでるみたいじゃねぇか。いい仕事だな、あんたの仕事」 どの言葉が引き金になったのかわからない。ウズラは気づくと大粒の涙を落としていた。「助けてください」と声にならない音が喉から溢れていた。 それを見つめる二人の男は、ウズラの両脇に椅子を寄せ、彼女が泣き止むのをゆっくりと待った。 「2年前、ある大学で経済を学ぶ学生が、この国の汚職体制を解決しようと政府を巻き込んだ大掛かりな銀行決済システムを構想したの。それが実現すれば、不正なお金の動きも全て白日の下にさらされ、違法な取引に使われそうな資金の動きをいち早く察知こともできるようになるはずだった」 新聞で見たかもしれないな、とイズミが呟く。 「ウズラちゃんところが支援していたのか? じゃあ」 「そうよ。オグロファミリアからの脅迫と、犠牲者と遺族とのやり取りも、私が全てしたわ。崇高な理念を実現しようとしていた一人の若者は、国道沿いに放置された三つの金庫の中から発見されたわ」 「クソッタレ」 「しばらくして気付いたの。会社のサイト上に彼と同じようなシステムの開発資金を募るページがいくつも出来ていた。報われたと思った。彼の意志はまだ生きているんだって。嬉しくて、主催者に会おうとした。でも連絡先も実態調査書も社内で見つけることができなかった。唯一詳細を知っているのは、私のボス、トゥナ社の社長だけだった。いくつかの支援が成立し、システム開発費となるはずのお金がどこかへ消えて行った。その後、その清廉潔白を標榜したシステムが世間に出ることは一度もなかった」 いつの間にか日が沈んでいた。
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