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老執事が部屋の明かりを付けた。
「会社に不信感を持った私は、知り合った匿名ネット戦士群:アンヘル・アノニモの一人と徹底的にその件を洗ったの。そしたら」
「まさか、オグロファミリアか」
「そう。理念と清廉を応援していたはずのうちの会社は、すでに悪魔に汚染されていた。それどころか毒を撒き散らす死霊のはらわたに成り果てていた」
「ゆっくりでいいです」青年が魔術師のような手の平を、そっとウズラの肩に置いた。イズミも同じように分厚い掌をもう一つの肩に置いた。
「奴らを駆逐するはずのシステムに出資した小口の投資家たちは、奴らに名前、住所、連絡先、全てを知られ、世間に気づかれないくらいゆっくりと殺されていた。私が、私が、わたし」
「まかせろ! 俺は何をすればいい!」
「言ってください。私は久々に怒りに燃えました」
二人に声に励まされるように、ウズラは大きく深呼吸をする。
「お金を。呪いのお金を、使わせてください」
彼女の言葉は、ゆっくりと室内に浸透していった。
それから半年の時間を経て、
悪魔の名を冠する地上最大のマフィアは地に倒れた。
あまりに巨大な組織だったので、注ぎ込んだ1億ドルの毒薬をもってしてもそれだけの時間が必要だった。
テレビニュースが何度目かの速報を出す。国軍の特殊部隊が最後の幹部を暗殺したと報道される。
その瞬間、ウズラとイズミとアズの三人は静かに抱き合った。
「貴方の正義が勝ちました」
「違うよ、みんなの正義が勝ったのよ」
「今日ほど自分への呪いに感謝した日はありません」
「最高の気分だぜ。蟻が魔王を討ったんだ」
その後一週間、南の孤島で無邪気に無謀に遊び倒した。
3人の絆は、出会った頃の関係が嘘のように、堅く厚く強く繋がっていた。
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