ウィアード・インベスター

9/11
前へ
/11ページ
次へ
老執事が部屋の明かりを付けた。 「会社に不信感を持った私は、知り合った匿名ネット戦士群:アンヘル・アノニモの一人と徹底的にその件を洗ったの。そしたら」 「まさか、オグロファミリアか」 「そう。理念と清廉を応援していたはずのうちの会社は、すでに悪魔に汚染されていた。それどころか毒を撒き散らす死霊のはらわたに成り果てていた」 「ゆっくりでいいです」青年が魔術師のような手の平を、そっとウズラの肩に置いた。イズミも同じように分厚い掌をもう一つの肩に置いた。 「奴らを駆逐するはずのシステムに出資した小口の投資家たちは、奴らに名前、住所、連絡先、全てを知られ、世間に気づかれないくらいゆっくりと殺されていた。私が、私が、わたし」 「まかせろ! 俺は何をすればいい!」 「言ってください。私は久々に怒りに燃えました」 二人に声に励まされるように、ウズラは大きく深呼吸をする。 「お金を。呪いのお金を、使わせてください」 彼女の言葉は、ゆっくりと室内に浸透していった。 それから半年の時間を経て、 悪魔の名を冠する地上最大のマフィアは地に倒れた。 あまりに巨大な組織だったので、注ぎ込んだ1億ドルの毒薬をもってしてもそれだけの時間が必要だった。 テレビニュースが何度目かの速報を出す。国軍の特殊部隊が最後の幹部を暗殺したと報道される。 その瞬間、ウズラとイズミとアズの三人は静かに抱き合った。 「貴方の正義が勝ちました」 「違うよ、みんなの正義が勝ったのよ」 「今日ほど自分への呪いに感謝した日はありません」 「最高の気分だぜ。蟻が魔王を討ったんだ」 その後一週間、南の孤島で無邪気に無謀に遊び倒した。 3人の絆は、出会った頃の関係が嘘のように、堅く厚く強く繋がっていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加