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雨、強くなってきた…
手元のラジオを引き寄せ、スイッチを入れる。
ガー、ピーという雑音の中に紛れる天気概況を聞く。
停電している今は唯一頼りになる情報源だ。
「…沖に発生し…風7号は勢力を…進路…東北東へ…」
また上陸って…、直撃するのかしら。
一人だけの部屋、誰に聞かせるともなく呟く。
あの日も、日曜で雨が降ってたっけ。こんな風に強く…
蝋燭を見つめながら小さく微笑む。
ねぇ、いつまで待たせるつもり?
雨の音は好き。あの人が来てくれるような気がするから。
彼の仇名はアメフラシ。
ここぞという日には必ず雨に見舞われるから。それは当然、自分の所に来る日も。
「いいわよ。傘なら顔を隠しても不自然に思われないもの」
人目を忍ぶ仲だった。彼がやってくるのは決まって日曜日。
そして、必ずと言っていいほど、雨が降っていた。
「私にとって雨はね、貴方を連れてきてくれるありがたいフェアリーよ。」
悪天候を笑える幸せが嬉しかった。
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