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こうして幾日か経ち、ようやっと領地へ着いた。
名主たちの歓待を受け、更に酒を勧められるも長旅で疲れた忠左衛門はやんわりと断り、早めに床についた。
「若殿様」
「ん?」
「それにしても恙(つつが)なき御到着、祝着にございます」
「うむ。一統息災とは実に祝着じゃの」
就寝前の挨拶に来た吉信と笑みを交わす。
御府内を移動するわけではないため、あらゆる道中は様々に危険が伴う。
『この時代、怪我や病、盗賊の襲撃などから逃れ、無事に目的地や宿に着くのは大変で、本当に目出度い祝い事だった。毎回、旅や遠出時は死を覚悟して家や屋敷・宿を出立するのである。
参勤交代など、大名たちも道中は何かと祝い金を供や同行の家臣たちに下賜している』
「明日は如何なされましょうや?」
「う~む、そうさのう。せっかくだから、近くの海へ参ろうか」
「それは良きお考えにございますな」
「うむ。ささ、吉信も皆も疲れたであろう。朝も早くなくてよい。下がってゆるりといたせ」
「ありがたきお言葉にございます。では」
忠左衛門の前を下がり、自分たち一行に
言葉を申し伝えると
「こういう言葉をかけることができるところが、下の者を労(いた)わる優しさであり、また我々もそういう若殿様に付いていこうと思えるんだ!優しい御方だ!」
と口々に供の連中が喜ぶのを見て、つくづく我々は良い主君に恵まれたものだ、と感慨深い吉信であった。
翌日。浜辺に行くと、忠左衛門は一人で散歩すると言い出した。
天下の直参御旗本の若殿様に何かあったら、一大事である。
吉信たちは必死に供を連れるようお願いしたが、「そなたたちも今日はゆるりとせい」の一点張り。仕方なく「遠くからお供させて下さい」と妥協案を出して何とか事なきを得た。
久々に自由となった忠左衛門はウキウキと機嫌よく散歩していた。
「一人でいるのは何年ぶりであろうかの…」
ふと後ろを振り返ると遠巻きに、吉信たちが付いてきているのが見える。
「浜辺は気持ちの良いものじゃ」
どれぐらい歩いていただろうか。
波打ち際に横たわっているものがある。
「?」
本人は「もはや童ではない」なぞと言っているが、そこはまだ24歳。
好奇心旺盛な青年である。
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「どうしようかな」
柚羽はPCの前で伸びをしながら呟いた。
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