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草原に、うららちゃんの声が響く。
「テントは?ベッドも寝袋も無いし、どうすんの?」
「テントなんていらない。荷物になるでしょ?ほら、そこに小川があるよ。水を汲んでこよ?」
夜営もしたことないのか…。うららちゃんはお嬢様育ちなのかもしれない。
近くに綺麗な水があって、見晴らしが良い。
匂いのする木が数本生えていて、焚き火の後がある。
ここは旅人たちによく使われている夜営地らしかった。
「ねぇ…おふろなんて…もちろんないの?」
「宿に泊まれたらね。」
うららちゃんは大きなため息をついた。
「着替えは?お洗濯は?」
「無い。宿に着けたらいろいろできるけど、旅ってそういうもんなんだ。」
「キャンプ場だって温泉位あるのに…。あ、ねぇ、薪とか森で拾ったりするの?」
「しないよ。」
言いながら俺は腰につけていたランプを地面に置く。
小さいけれど照明としてはこれで十分、蓋を組み換えればふたりぶんのお茶を入れるためにお湯だって沸かせる。
「小川でお魚捕まえたりはするの?」
「しない。カップ出して。」
腰袋から食事の粉を出して、お湯を入れる。
「はい。御飯。」
「ねぇ…食事って、いつもこれなの?」
含みのある言い方だった。
「そうだけど?」
うららちゃんは盛大なため息をつく。
「文句はいえないもんなぁ…。」
続いて、空を仰いでいた。
これ以外にどんな食事があるっていうんだろう。
俺はスプーンで食事を口に運ぶ。
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