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とりあえず、近くの(俺の荷物を預けてある)宿へ連れていく。
「それで、よくわからないけどアタシ、気がついたらここにいたんです……」
一晩明け。
少し古びた宿の食堂で、涙ながらに話す彼女。
つられたのか、村の大人達が涙ぐみながらウンウンとうなずいている。
彼女はこのまま、この村で暮らしていけそうだ。
そろそろ次の村に行きたい俺は、その場をそっと離れた、いや離れようとした。
「なんで置いてくのよ」
少しふてくされたような上目遣いがかわいいなとかは思わない。
「アタシを独りにするの……?」
潤んだ瞳がキラキラしてるとか思わない。
「ほら、旅ってモンスターが出たりして危ないし、俺は旅の途中だし、キミは」
「キミじゃないわ、うららちゃん」
俺のマントを握りしめる、小さな手の爪が桜貝みたいだなって俺は、絶対、思ってないから。
「あー…うららちゃん?」
「なぁに?」
「うららちゃんに、旅は、無理」
「……そうなの?」
……沈黙。っておい。周りに人が
なんでこの村の住人はこの子をとめないんだ!?
「モンスターが出て危ない。その格好では長い距離はとてもじゃないけど歩けなさそうだ。それに、」
一旦言葉を溜めてから、形の良い鼻を小突いてやった。
「うららちゃんには宿代も御飯代もない」
こういう事はびしっと言ってやったほうが良いんだ。
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