第1章

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「仕事もろくに出来ない人間が職場で盛るとはいい度胸だな」 地の底から聞こえて来たのかって言うくらい低い声が給湯室に響く。 入り口を見ると、閻魔様のような顔をした加藤様。 ああ、どんな顔をしてても端正。 「議事録終わったのか?」 なんで私がそれを作っていたのを知っていたのか不思議だったけれど、『終わりました』と答えると『ここで乳繰り合う時間か?』とこれまた凄味のある声に私以上に新藤さんがビビり上がってる。 「いえ。あのお疲れ様です。 それじゃあ佐久間さん、お疲れ。また明日」 と、そそくさと給湯室を出て行く。 ちょっと待って!今この状況で私一人ってかなりやばくない? どさくさに紛れて新藤さんの後を追うように給湯室を出ようとすると加藤様の長いなが~~いおみ足が『ダン』と私を挟むように壁につける。 『壁ドン』二回目!って、これ壁ドンとは言わないよね? 壁ダンだよね!しかもお顔が閻魔様! 「すすすすすみません」 何故か謝る私。 「何か悪い事でもしたと?」 「いいいいいえ、いえ、何もしてません!」 そうよ!私は何もしてない・・・はず! そりゃ会議の話は聞いてなかったけど、でもちゃんとこうやって出来たわけだし。 そしてなによりこの足を下ろして頂けないでしょうか。 ソッと降りる足。 そして踏まれた私の足。 「地味に痛いです」 「痛いように踏んでるからな」 「どけてもらえないでしょうか」 「こんな時間、新藤と何してたんだ?」 「残業を少々」 「給湯室で残業をするのか?」 「それは頂いた缶コーヒーの処理を」 「へぇええ。それで新藤に言い寄られていたと?」 「言い寄られてなんていないです」 「彼氏が居ないと堂々と宣言しておいて」 ちょっと待った!一体いつからここに居たんですか!とツッコみたいけれどそんな事許せしてもらえそうにない状況。 「俺は彼氏じゃなかったって事か?」 「ちっち違います!加藤さんとの事、新藤さんに話していいのか迷っただけで」 「だけで?」 「ちゃんと彼氏ですし。新藤さんん言い寄られてなんてません!」 もう一度キッパリ言うと、『これでも?』と改めての『壁ドン』体制。 いやぁあああああああ! 鼻血でる!加藤さんの顔がすぐそこだし、たまに息が首筋にかかるし。 ダメ!このまま昇天できちゃう! 「行くぞ」
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