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「櫻井さんの意地悪。」
果夏は、そう言うけれど。
実際振り回されたのはこっちの方だ。
渚の言葉がなかったら再会した果夏に、俺はまた何も言えずにいただろう。
きっと今も、果夏と人生が重なることは無かった。
「果夏?」
俺も椅子から降りると、果夏に向かい合って胡座(あぐら)を組んだ。
「なあに?」
そっと抱き寄せ、現実を確かめる。
それだけで暖かい気持ちになった。
「今日はもう一人、俺の大切な人から結婚報告があったんだ。一緒に祝ってくれる?」
もう二度と会わない、大切な人。
「もちろん!いつ呼ぶ?」
「会えないんだ。遠くにいるから……」
「そうなんだ。……わかった!じゃあ二人でケーキ食べて、シャンパンでもあけちゃう?」
会えないけれど、メールの返信もしないけれど、どうか祝福させてほしい。
「いいね。」
遠くない未来に、また一つ渚の幸せが叶うことがわかるのは、別のお話。
完
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