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「果夏、ネクタイどれがいいと思う?」
「え?ちょっと待ってね、うーん…。」
俺のネクタイを真剣に選ぶ彼女。果夏は去年の夏、奥さんになった。
「シャツが薄いピンクだから、エンジとかでもいいよね。あ、これなんかどうかな。ピンクのストライプも入ってるし!」
「ありがとう。じゃ、それにするよ。」
「うん!櫻井さんなら何でも似合うけどね。悔しいけど。」
自分も櫻井になったと言うのに、未だに付き合っていた頃のまま「櫻井さん」と呼ぶ。
着替えを済ませると、ダイニングテーブルに用意された朝食を取る。
「果夏はいつになったら俺のこと名前で呼んでくれるんだろうね?」
「へ!?ごほっ!」
真っ赤になり、口にしていた食パンを喉に詰まらせ、慌てて牛乳を流し込んでいる。本当に見ていて飽きない。
「何やってんの。ほら、急がないと遅刻するよ。」
「や、ヤバイ!!」
俺と果夏が働いているのは家具メーカー。
以前は同じ部署だったが、今は念願叶ってお互いの望んだ部署に配属されている。
俺は、空間デザイナー、彼女は以前と変わらず商品企画部でデザイナーとして頑張っている。
「あ、土曜日よろしくね。」
「あー、望くんと、さえこちゃんがくるんだっけ。」
「うん、赤ちゃん連れて来るって!楽しみだねー!」
「うちは、まだ?」
そう言って果夏の腹部をさすってみた。果夏は再び真っ赤な顔で俺を見るとパシン、と軽くさすっていた手を叩いた。
「…まだです!ほら、行くよー!」
「はい、はい。」
傍から見たら、俺たちは何事もない幸せな夫婦だと思う。
けれど、俺からしたらやっと手に入れた幸せであり、こうなるまでにそれなりに苦労してきた。
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