第一話

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「果夏、ネクタイどれがいいと思う?」 「え?ちょっと待ってね、うーん…。」 俺のネクタイを真剣に選ぶ彼女。果夏は去年の夏、奥さんになった。 「シャツが薄いピンクだから、エンジとかでもいいよね。あ、これなんかどうかな。ピンクのストライプも入ってるし!」 「ありがとう。じゃ、それにするよ。」 「うん!櫻井さんなら何でも似合うけどね。悔しいけど。」 自分も櫻井になったと言うのに、未だに付き合っていた頃のまま「櫻井さん」と呼ぶ。 着替えを済ませると、ダイニングテーブルに用意された朝食を取る。 「果夏はいつになったら俺のこと名前で呼んでくれるんだろうね?」 「へ!?ごほっ!」 真っ赤になり、口にしていた食パンを喉に詰まらせ、慌てて牛乳を流し込んでいる。本当に見ていて飽きない。 「何やってんの。ほら、急がないと遅刻するよ。」 「や、ヤバイ!!」 俺と果夏が働いているのは家具メーカー。 以前は同じ部署だったが、今は念願叶ってお互いの望んだ部署に配属されている。 俺は、空間デザイナー、彼女は以前と変わらず商品企画部でデザイナーとして頑張っている。 「あ、土曜日よろしくね。」 「あー、望くんと、さえこちゃんがくるんだっけ。」 「うん、赤ちゃん連れて来るって!楽しみだねー!」 「うちは、まだ?」 そう言って果夏の腹部をさすってみた。果夏は再び真っ赤な顔で俺を見るとパシン、と軽くさすっていた手を叩いた。 「…まだです!ほら、行くよー!」 「はい、はい。」 傍から見たら、俺たちは何事もない幸せな夫婦だと思う。 けれど、俺からしたらやっと手に入れた幸せであり、こうなるまでにそれなりに苦労してきた。
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