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確か、梅雨の季節だった。
雨ばかり続いていて、いつもは傘で周りなんか見えていなかったのに、その日は久しぶりの晴天で。
何気なく、広がる青空を見ていたら、その視界の中に彼女がいた。
一瞬、ドキリとした。
こちらをじっと見つめる瞳が、俺を見ているのかと思ったから。
けれど、すぐにそれが隣の高岡に向けられたものだと気づいた。隠すことなく放つ好意に、何だかこちらが照れ臭くなるような気分だ。
少し落胆し、それから納得して、同情した。
きっと、彼女の想いは実らない。
「なぁ、朝さ。すごい見てくる子いるじゃん。」
「ああ、中学生?」
「そそ!櫻井も気づいてた?」
「まぁね、あんだけ見てたらね。」
「俺さ、昨日から三組の朋香と付き合うことになったんだけど。」
三組の朋香、と言えばこの学校で一、二位を争う美人だ。
「朝一緒に登校したいって。櫻井も一緒でいいって。」
「はぁ?俺やだよ。二人で行けば?」
「いや、あの中学生怖いし…。お願いします!三人で登校しよ!」
「…はい、はい。」
怖いって、何が怖いのか分からない。想いを寄せてもらえるのに、贅沢な奴だな、としかその時は思わなかった。
翌日から三人で登校を始めた。
いつしか、自分に視線が来ていないことをいいことに、毎朝彼女を見ていた。
いつも頬を赤く染めて、高岡を見る彼女を。
だが、今日は違った。
朋香の姿を見た彼女は少し驚いたような顔をして、それから小さく首を振った。
ズキン。
どうしてだろう。胸の奥に小さな痛みを覚えた。
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