1489人が本棚に入れています
本棚に追加
「ね、今の子颯斗のこと見てたよね?」
彼女がすれ違ってから、朋香が高岡に耳打ちした。
「分かった?」
「うん、絶対颯斗のこと好きだよね。」
「んー、そうかもね。」
「ま、中学生に危機感なんて覚えないけどね。」
ケラケラと笑う二人を横目に俺は自分でも分からない苛立ちを覚えていた。
でもこの時の俺は何も言えなかった。
彼女に対する気持ちが何なのかも理解出来ていなかったから。
肩までのボブに、良く言えばつぶらな瞳。制服を着崩すわけでもなく、背の高さも何もかもスタンダード。
特別美人でも、目立つわけでもない彼女に対するこの気持ちが何なのか。
翌日から、時間をずらしてくるかな?とも思ったが、いつもの時間に彼女と会った。
この時、もしかして見た目通り鈍いか、見た目によらず強い精神の持ち主のどっちかか、と思った。
いつもと同じ様に高岡に、高岡だけに熱を帯びた視線を送る彼女を見る俺は他人にどう映っていただろう。
少しの寂しさと、また会えた嬉しさ、それと罪悪感。
いずれ、この子は大きな傷を負うことになる。
だからと言って、高岡に彼女がいることを俺から伝えるのもおかしな話だ。
大体、こんなことで悩むなんてどうかしている。
季節は移ろい、夏休みがやってきた。
夏休みと言っても、水泳部にとっては逆に普段よりも休みなどなく、大会に向けて練習の日々だった。
ある日、部活の帰りに偶然彼女を見た。休み中に会えるなんて思わなかったから驚いた。
彼女は学校指定のスイミングバッグを持って、友達とパックのジュースを飲みながら、木陰のベンチで喋っていた。
(水泳部なんだ。)
意外な共通点を見つけて、何だか嬉しかった。
俺もパックのジュースを買うと、彼女と背中合わせに座った。
最初のコメントを投稿しよう!