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気づいた時点で失恋は確定しているという不毛な想い。
あの熱っぽい視線で俺を見てくれたら──。
何度も想像しては、胸を高鳴らせた。そんな自分がたまらなく情けなくて嫌になる。
長かった夏休みも終わり、新学期が始まると、すぐに文化祭の準備に追われた。
俺のクラスは模擬店をやることに決まった。
見栄えのいい高岡は客寄せ、俺は調理担当だ。接客は苦手だから助かるが、カナがいつ来るか。それだけは気にしていたい。オープンキッチンの方が客受けが良いとの理由をつけて、教室の入り口がよく見えるような配置に勝手に設計した。
理由はとても稚拙だが、こういう空間をデザインするのは好きだったから、作業は楽しかった。
文化祭当日。
高岡のいる位置を確認しつつ、仕事をしていたが、昼近くになるとさすがに食べ物を扱っているから座席は満席、教室の外に行列が出来るほどの混雑に、たまにチラッと入り口を見るくらいしか余裕がなくなってきた。
「櫻井!小麦粉足りなくなるかも。悪いけど在庫とってきてもらってもいい?」
「分かった。」
一緒に調理していたクラスメイトの女子に頼まれ、仕方なくその場を離れた。
その時に周りを見渡すが、カナの姿はない。
まだ来ていないのだろうか。出来れば来て欲しくない、と願いつつ急いで小麦粉を取りに行った。
小走りで教室に戻る途中で、視線の先に高岡と朋香をとらえた。
──ドクン。
最悪だ。
今まさに目の前でカナが高岡に向き合っている。
どうにも出来ないのに、焦る俺は全速力で教室に戻ると小麦粉を置いて再び高岡の元へ走った。
「悪いけど、この子と付き合ってるから。」
さらりと言い放ち、なんのフォローもせず、朋香の肩を抱いてカナから立ち去る高岡に殺意のようなものが湧いた。
何が起きたのか分からない、といった表情をした後、カナは泣き崩れた。
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