第一話

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守れなかった。 こんなことになるなら、高岡に言っておけばよかった。 何を? 優しくカナを振ってやれって? 俺はその場で抱きしめたい衝動を抑え、ギュッと拳を握った。 それから、遠慮がちにカナに近づくと「ごめんね…。」と何度も声を掛けた。こうなることは分かっていたのに。 守れなくて、ごめん──。 俺なら、こんな風に泣かせたりしないのに…。 よろよろとした足取りで「大丈夫です。ありがとうございます。」と言って立ち去るカナを見送ってから、俺は高岡の元へと向かった。 「櫻井、お前調理担当が怒ってたぞ?どこいって…って何すんだよ!」 俺は無言で高岡の襟元を掴むと、壁に押し当てていた。 「高岡、お前あの子の気持ちわかってただろ?もうちょっと考えて断れ。」 「ちょ…、櫻井、怖い!」 「うるさい。俺は人の気持ち考えられない奴とはつるみたくない。明日から一緒に登校しないから。」 普段、笑うことはあっても、これだけ怒りをあらわにすることはなかったから、高岡は「ご、ごめん。悪かったよ…。」と素直に謝ってきた。 「俺にじゃないだろ。」 「分かった!明日あの子に会ったら謝るから!」 ゆっくりと手を離すと、何も言わずに持ち場へ戻った。 けれど、次の日からカナに会うことはなかった。 考えてみれば、そんなことはわかりきっていた。
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