1489人が本棚に入れています
本棚に追加
守れなかった。
こんなことになるなら、高岡に言っておけばよかった。
何を?
優しくカナを振ってやれって?
俺はその場で抱きしめたい衝動を抑え、ギュッと拳を握った。
それから、遠慮がちにカナに近づくと「ごめんね…。」と何度も声を掛けた。こうなることは分かっていたのに。
守れなくて、ごめん──。
俺なら、こんな風に泣かせたりしないのに…。
よろよろとした足取りで「大丈夫です。ありがとうございます。」と言って立ち去るカナを見送ってから、俺は高岡の元へと向かった。
「櫻井、お前調理担当が怒ってたぞ?どこいって…って何すんだよ!」
俺は無言で高岡の襟元を掴むと、壁に押し当てていた。
「高岡、お前あの子の気持ちわかってただろ?もうちょっと考えて断れ。」
「ちょ…、櫻井、怖い!」
「うるさい。俺は人の気持ち考えられない奴とはつるみたくない。明日から一緒に登校しないから。」
普段、笑うことはあっても、これだけ怒りをあらわにすることはなかったから、高岡は「ご、ごめん。悪かったよ…。」と素直に謝ってきた。
「俺にじゃないだろ。」
「分かった!明日あの子に会ったら謝るから!」
ゆっくりと手を離すと、何も言わずに持ち場へ戻った。
けれど、次の日からカナに会うことはなかった。
考えてみれば、そんなことはわかりきっていた。
最初のコメントを投稿しよう!