第1章

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かぐやでなくても、ぼくの中の誰もが修平には好意を抱いていたし、周りの男女、優等生、不良、先生と、立場を問わず、誰もが彼の能力を認めていた。あるいは、憧れていたし、恐れていた。 あの頃の修平は、他のクラスメートとは明らかに違った雰囲気を漂わせていた。 頭脳明晰、容姿端麗、剣道部主将で運動神経は抜群。加えて、度胸があり、機転もきくし、曲がったことは大嫌い。それでいて、いつもどこか本気でないような、本来の実力を隠して生活しているようなフシがあった。例えば、剣道の都大会個人戦でベスト4に勝ち進んだにもかかわらず、その後腹痛と偽って、試合を棄権したり、試験で半端な点数をとったり、わざと、ダサ目の格好をしていたり。 目立ちすぎると生活がしづらくなるというイミでは、同じような悩みを抱えていて、陽と陰の差はあるものの、妙な連帯感を、ぼくは修平に感じていたものだった。 「いっとくけどな。わざわざ火曜を選んでセクハラしたんだぜ。だから、さっきのは犯罪じゃない」 「だから、なんでいちいち体を揉むんだよ」 「いや、試してみただけだよ。さすがにあれぐらいじゃあいつは出てこないか」 「そうだね。場所も場所だし」  あいつというのは、曜日ごとにいる主人格の他にいる人格のことだ。 ぼくの知る限りでは、今のところ二人いるんだけど、そいつらは、ぼくの意思じゃ管理できなくて、ふとしたきっかけで出てきてしまう。 一人は、エイチという人格で、性欲が高まった時にだけふいに出てくる、すごくやっかいな奴。普段は20分程度、体を好き勝手いじくったり、匂いを嗅いだり、舐めたりしたあと、満足して眠ってしまうという、人に説明するのはすごく恥ずかしい奴。性別はたぶん男だから余計タチが悪い。もし、思春期の男子が、女子の体に移り変わったらやるんじゃないかというような行為を一通りやる。要するに自分の体に興奮するド変態だ。 エイチが現れ始めた頃は嫌悪感でいっぱいだったけど、性的欲求というのは正しい人間の感情ではあるし、あるというのは、イコール必要なものなのだろうから、他所で出ないだけマシと思うしかない。
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