第1章

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他人と一緒にお昼を食べるなんてひさしぶり。今日はあまり時間を取れなかったけど、とりあえず、全員に再会するまで毎日会ってくれるらしい。彼は今、大学の近くで一人暮らしをしているそうなので、今度遊びに行くつもりだ。 なお、明日の史学概論Aは、303号室から402号室に変更。掲示板確認するよう注意されたし。それじゃおやすみ。   あっ、そうそう、明日の修平との待ち合わせ場所は、お昼に噴水前。何かあった時のための電話番号、090―28××―55××。なのでよろしく。          さやかより、ウェンディへ》  目覚めたら、まずシャワーを浴び、バスタオル姿のまま、グラスに注いだ野菜ジュースを飲んで、口の渇きを潤す。そして、ドライヤーで髪を乾かし、服に着替えてから、さやか達が残してくれた一週間分の日記をじっくりと読む。それが何年も続けている私の朝の習慣。 基本人格であるさやかの記憶は、担当の曜日が終わると、副人格のスペースに押しやられて、だいぶぼやけてしてしまうので、毎日日記をつける習慣は、私達にとってはかかせない作業だ。そういうふうに確認しないと、前の日にあった細かいこととかは、どんどん忘れていってしまう。 一般的な常識とか、銀行の暗証番号とか、全員に共通した情報なら、個別で覚えておけばいいし、人格が別れる前の体験は共有できている部分が多いから、それほど問題でもない。それに、授業で覚えた漢字とか、英単語とか、公式なんかは、ベースのさやかの記憶を元に、それぞれがまた別に覚えておき、勉強の復習みたく再度記憶を繰り返し共有すればある程度まではどうにかなる。 けれども、別人格の個人間であったこと、会話や考えたことなんかを、それぞれが覚えておくのはけっこう骨の折れる作業だ。なにしろ、6人分の体験と感情だ。管理人としてのさやかの能力や記憶力にも限界がある。(でもまあ、優秀なほうではあると思う) その気になれば、主人格と副人格間で、話のようなものもできなくもないのだけど、そのたびに別の人格に呼びかけるのはひどく疲れる行為だ。
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