鞘火 失われた土曜日  その2

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鞘火 失われた土曜日  その2

賞の歴史で初のW審査委員賞受賞。 陽の目を見られなかった幻の問題作? が電子書籍で登場。 本作は過去に富士見書房で開催されていた、ライトノベルの賞、 第8回富士見ヤングミステリー大賞で井上雅彦・竹河聖  両審査委員賞を受賞いたしました「鞘火」の改訂版です。 その2。 7章から11章まで掲載。 7日目  月曜日 「あっ、昨日はわざわざありがとうございました。おかげで助かりました」  修ちゃんと噴水前のベンチでランチを食べていると、昨日引越しを手伝ってくれた、大谷誠さんという2個上の先輩が話しかけてきたので、私は、ペコリとお辞儀をしてお礼をいいました。何でも修ちゃんとは高校時代からの知り合いだそうです。 「いいって、いいって。まあ、これでご近所になったんだし、なんか御用達あったらウチの店で頼むよ」   誠先輩は、愛想のいい笑顔を浮かべながらそう答えました。彼の実家は酒屋さんを経営していて、それで小さなトラックが借りられたのです。 「ハイ。お酒はまだ無理ですけど、水とかウーロン茶とかならまとめ買いお願いしたいです。あと、野菜ジュースとか」 「おお。あるある。配達もするよ」 「じゃあ今度お願いしますね。もうすぐなくなりそうなので」  と私は、家にある飲料のストックを思い出してからいいました。買い物の際、毎回重いものを持って帰るのは大変なので、配達までしてくれるのなら大助かりです。 「毎度どうも。あっ、そういや、さっき修平と腕組んでるの見たよ。ホントは付き合ってるんじゃないの?」 「え? 恋人関係ですよ。修ちゃんとは」 「あれ? マジで? だって昨日、誰が彼女だボケッって、初対面なのにいきなり俺に蹴りくれたじゃん」 「……ああ。あのぅ。すみません。あれはギャグですギャグ」 「ギャグ? ハハハ。シュールだなぁ。流行ってんの? そういうの」  誠先輩は、乾いたように笑い、そのあと修ちゃんと二言三言交わしてから、その場を立ち去っていきました。 「もうっ。遊の次の日って、これだから大変なのよ。いっつも私がフォローするんだから。おまけに汗かいたのに、体も頭も洗わないで寝ちゃったから、朝起きたらちょっと臭いし」
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