鞘火 失われた土曜日  その3

1/28
前へ
/28ページ
次へ

鞘火 失われた土曜日  その3

賞の歴史で初のW審査委員賞受賞。 陽の目を見られなかった幻の問題作? が電子書籍で登場。 本作は過去に富士見書房で開催されていた、ライトノベルの賞、 第8回富士見ヤングミステリー大賞で井上雅彦・竹河聖  両審査委員賞を受賞いたしました「鞘火」の改訂版です。 その3。 12章から16章まで掲載。  12日目  土曜日  けたたましく鳴り響く電子音にうながされ、ぼくは寝ぼけまなこのまま、ケータイを耳にあてた。 「おい、これから出かけるぞ。用意しろ」  きこえてきた修平の声は、今日が休日であることを忘れているかのような、ぶしつけな話口調だった。 「うぅ。まだ9時前だよ。どうしたの?」 「おめーは先週俺を7時前に起こしたろうが」 「……どこ行くの?」 「まだ決めてないけど遊びに行く。泊りがけで」 「泊まりなの? 急だなぁ。そういうことは前の日に伝えといてよ」  とぼくは、まだうつろなままの状態で文句をいった。あらかじめ、伝えておいてさえくれれば、あと半刻は寝られたはずだ。 「それはダメだ。こうやっておまえをからかう楽しみがなくなる」  まるで、こっちが間違った意見を押し付けているかのように、修平は即座に否定した。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加