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「それも怖いけど、他にも、車燃やされたり、カバン捨てられたりとかさ。地味な嫌がらせ程度ならいくらでもできるだろうから。こっちはそれやられても、おまえを犯人として突き出すわけにもいかないし」
「ハハ……ごめんね気を使わせて」
「まあ、奴はもう俺が逃げないという意志も確認しただろうし、簡単に隙は見せないこともわかってるだろうから、決着の日までは出てこないとは思うけどね」
「なんか、黙っていられると逆に不気味だよね」
ぼくはそういいながらも、ふと収納ボックスに入っていた駄菓子セットの存在に気付き、何の躊躇もなく袋を開封した。
「結局食うんじゃねえか」
「だって、お腹すいたんだもん」
「散らかりやすいものはここで食うなよ。ふ菓子とか、せんべいとか」
「わかった」
ぼくは丁寧に頷き、袋の中を吟味しながら、手始めとして、一口サイズのきなこチョコレートを口にほおばった。
途中で第三京浜の有料道路に乗り継いだので、思っていたより早く江ノ島に着くことができた。
駐車場も兼ねたファーストフードで、広大な太平洋を眺めながら軽いランチをとると、ぼく達はそのまま砂浜に移動し、どういうわけかキャッチボールをすることになった。
それもミットと軟式ボールを使った、わりと本格的なやつだ。
「明日、遊とやろうと思って持ってきたんだよ」
と修平は説明した。
「じゃあ、明日やればいいじゃんか」
ぼくは口をとがらせていった。波と戯れたり、貝殻拾い集めたり、海岸を散歩したりする程度なら別にいいのだけど、けっこう人がいる中で、こういう目立つ行為をするというのは、ぼくにとっては少しばかり度胸のいることだった。
「しょうがないじゃん。やりたくなったんだから」
「うぅ。汗かきそう。制汗スプレー持ってきたっけなぁ」
ぼくは、不平をこぼしながらも、しぶしぶミットに手を通した。
悠々と風に乗るカモメ達をバックに、十何球か肩慣らしをしてから、やがて、防波堤越しに、修平がぼくを座らせた。キャッチボールの肩書きは、いつのまにかピッチング練習の形式に姿を変えていた。
「気をつけろよ。軟式とはいえ、俺の全力投球は110キロを軽く超すからな」
「なんでぼくがキャッチャーなんだよ。普通男がやるだろ」
「いいんだよ。明日はどうせ、俺がキャッチャーやらされるんだから」
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