鞘火 失われた土曜日  その3

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もちろん、好意をもってくれているからだとは思う。でも、それは、友達としての友情なのか、異性としてのスキなのか、それとも、単に関わってしまった正義感からくるものなのか、はたまた、特異体質に対する興味なのか、よくわからない部分があった。あるいは、全部がごちゃまぜになっているような状況なのかもしれない。 ぼく自身も、修平に対して、どれか一つの答えを望んでいるわけじゃない。 でも、もしすべてが解決したら、ぼく達はお互いに答えを見つけあわなきゃいけなくなるような気がした。その時、ぼくは何を思えばいいんだろうか。 こればかりは日記で相談できない、ぼくだけの隠し事だ。当然、他のみんなも、それぞれがそういう隠し事を抱えて生きていると思う。同じ脳と体で生活しているからといって、すべての想いが筒抜けになってしまうわけではないのだ。 (はぁー。月がきれいだなぁ。かぐやが見たら喜ぶだろうなぁ)  体をめいっぱい伸ばしながら、ぼくはカエルみたいに顔半分だけを湯船から出すような格好で、遠くに目をやった。  そうしていると、まるで夜の湖にぽかりと浮かんでいるような気になって、ぼくはのぼせてしまうほどに、いつまでもいつまでも空を眺めていた。    13日目  日曜日    目覚めたら見慣れない豪華なベッドの上だった。  俺が起きたからといって、すぐに副人格のさやかが起きて、状況をくまなく説明してくれるわけでもないし、記憶をうまく引き出せるわけでもない。こういう不安定な時間帯は、さやかの疲労度に比例して長くなる傾向がある。 だから日記で現状を把握するまで、俺はここが河口湖であることすらわからないままだった。窓からどう見ても富士山らしきシルエットが見えるので、近くだろうということくらいは想像がついたが、もしかしたら山中湖かもしれないし、本栖湖かもしれないのだから、そういう意味では正確にはわからなかったのだ。  俺達は、前日までの状況判断と、体内時計的なもので脳がきちんと曜日のローテーションを察知し、起きた瞬間から人格は固定される仕組みだけれど、こういう例外にはとことん慣れていない。さすがに、そういう現状を楽しめるほど、楽観的ではいられないのだ。  かといって、誰に不平をいってもはじまらない。どんな状態に置かれようとも、結局やるべきことをやるしかないのだ。
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