鞘火 失われた土曜日  その3

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「ああ。だって、金もないし、一人だとあんま行くところないぜ。せいぜいレンタルビデオ屋か、バッティングセンターくらいかな。一人ボーリングもやったことあるけど、あれはきついわ。傍目には休日の混雑の中で、女一人で黙々と投げて遊んでるようにしか見えないからな。ほとんどバツゲームだよ。その点、一人カラオケは、部屋入っちまえばこっちのもんだからけっこう快適だぜ。ちょっと店員の視線が気にはなるけどな」 「そう考えてみると、遊が一番手持ち無沙汰な曜日だよな。学校もないし」 「しょうがねえよ。女の演技とかもうまくできそうにないしさ。自分で決めた曜日なんだから」  と俺は窓のスイッチをいじりながらいった。  全員の中で、俺だけ明確な男だし、休日担当で人との交流が少ないしで、ラクといえばラクだが、一種の疎外感のようなものがあるのは確かだった。ずっとこういう環境だったから、一人がそこまで寂しいとは思ったことはないけど、やはり直接グチをこぼせる相手がいるというのは楽しいもんだ。    周辺の高原にまで来ると、修平は予約していたというスクールに受付しにいった。  体験コースといっても、自分で飛ぶのではなく、タンデムフライトといって、インストラクターが一緒に飛んでくれるタイプのものだったので、ビデオで説明受けて、車で発着場までつれていかれて、準備体操して、ハーネス繋いで、ヘルメットかぶってというかんじで、あれよあれよという間に、俺は空を飛ぶことになってしまった。なんでも、風の状態もよく、天気も良好で、絶好のフライト日和だという。  インストラクターの指示に従い、山の斜面を駆け下りると、パラグライダーの機体はふわりと浮き、俺の足は地面に届かない場所にあった。  不思議な感覚にとらわれているうちに、機体は何度も旋回を繰り返しながら、しだいに高度をあげ、大空を舞う鳥の目線にまでたどり着いた。  河口湖や、富士山を正面に、30分弱の空中散歩を楽しんでから、無事着陸し、少し遅れて地上についた修平と合流すると、俺達はお互い、ニヤケ顔で感想をいいあった。 はっきりいってめちゃめちゃ楽しかったのだ。苦手な女の演技までして、体験したかいがあったというものだ。
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