鞘火 失われた土曜日  その4

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鞘火 失われた土曜日  その4

賞の歴史で初のW審査委員賞受賞。 陽の目を見られなかった幻の問題作? が電子書籍で登場。 本作は過去に富士見書房で開催されていた、ライトノベルの賞、 第8回富士見ヤングミステリー大賞で井上雅彦・竹河聖  両審査委員賞を受賞いたしました「鞘火」の改訂版です。 その4。完結編です。 17章からエピローグまで掲載。 17日目  木曜日  ベッドから起きて、体がどこかおかしいことにはすぐに気が付いた。  私はすぐに机の上の体温計を取り出し、パジャマの中に突っ込んだ。修君に指示され、毎朝熱を測る習慣があるので、都合よく用意してあるのだ。 それから1分して、測定完了を知らせる電子音がピピピと鳴った。 「さ、39度6分~?」  思わず声に出してぼやいてしまった。数字を見るだけで、倒れてしまいそうな体温だ。  体は思いっきりだるいし、寒気もするし、ぼーっとしてあんまり動かないけど、幸い、喉が痛いわけでも、咳が出るわけでもないので、私は大量の水分と、りんごヨーグルトをお腹に流し込み、日記をざっと読み、解熱剤を飲んでから、もう一度体温を測ってみることにした。  当然、薬がすぐ効くわけでもないので、何度見ても39度6分のままだ。というか偏頭痛もいつのまにか症状に加わっていて、起きた直後より悪化しているっぽい。 よし、今日は大学休み決定。 朝も早いし、電話で起こすのもなんなので、私は修君に事情説明のメールを送ると、再びベッドに潜り込んだ。  部屋の電気が消えているのに明るい。そんな中、朝から再び眠りにつくというのは、今年になって初めてだった。 (いつもは時間がもったいなくて、二度寝なんかしないもんね)  複雑な気分になって耳を澄ましていると、ベランダの向こうで、スズメの鳴く声が代わる代わるきこえてきた。 チュンチュン……チュン。かわいらしい鳴き声がきこえてきても、スズメは慌しく、すぐどこかに飛んでいってしまう。もしかしたら、桜の花の蜜でも吸いに行っているのかもしれない。直接見たことはないけど、スズメは桜の花の蜜を吸うのだそうだ。月曜日に桜の花びらを飲み込んだという、かぐやの日記にそう書いてあった。  甘いのかな、味しないのかな、なんて考えているうちに、私の瞼は重たくなっていった。
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