鞘火 失われた土曜日  その4

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「どうする? 寝るなら、俺は帰るけど」 とりあえずの栄養補給もすみ満足したのか、目がうつろになっていたらしい私を見て、修君はいった。 「いやだ。起きてる。だって、今日でお別れかもしれないんでしょ」 「まあ、そうじゃないとはいい切れないな」  修君は、対応に困ったように視線を泳がせた。 「ベッドで大人しくしてるんならいいんでしょ?」 「基本的にはね」 「じゃあさ、じゃあさ。読んでないマンガのまとめ読み大会しようよ。一冊ずつ回して読んでくの。まだ手を出してないのたくさんあるし」 「別にいいよ。大長編よりは、短めのほうが、やりやすそうだな」 「うん。ちょっと、本棚の黄色い書類ケース取ってくれない? そこにリストが書いてあるんだ」  私の指示に従い、修君はベッドと本棚を往復して戻ってきた。  私は、その中から、一枚の紙を抜き取り、修君に渡した。 リストには、作者、巻数、少年、少女、青年、スポーツ、恋愛、ギャグ、ミステリーなど、細かくジャンル分けされた印が振ってある。我ながら芸が細かい。 「なんか読みたいのある?」 「……つーか、少女マンガばっかりだな」 「誰でもきいたことあるような、あまりに有名なのは、だいたい読んじゃったからね。そういうのはたいてい男向けマンガだから、そこに載ってないだけだよ」 「じゃあ、俺はランダムでいいや。指で、そのリスト適当に動かしてみ、途中でストップっていうからさ」 「おっけい」  いわれたとおり、返された紙を指でなぞると、10秒くらい経ってから、修君が合図を出した。 「おっ。これは、ちょっとマニアックな……」 「なんだ、なんだ?」 「それは、読んでのお楽しみ」    私は、メモを用意して、何タイトルかの候補を書き記すと、修君に手渡した。修君が臨死!江古田ちゃんを引き当てたことは、教えないままだった。 「古本屋さんになかったら、無理に探さなくていいからね」 「わーった。他に何かいるもんある?」 「えっとね、コーラと、プリンと、チョコレートお願い。あと、ひさしぶりに、UNOがしたいな」 「なんか、修学旅行みたいだな」 「そうだね。私は行ったことないけど」
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