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早朝に目が覚め、大事をとって私が今日も大学を休むことはメールで伝えていたので、高宮から電話があったのは、半分昼になりかけの、朝遅い時間のことだった。
「すまない。いろいろ迷惑をかけたようだね。完全にはひいてないけど、もう生活には支障はないよ。私はもう一眠りするから、高宮は、用があるなら講義が終わった夕方くればいいよ。あまり早く来たところで、私の家じゃ、昨日置いてったマンガ読むくらいしか、やることもないだろ」
「わかった。何か差し入れは?」
「味の薄いおかゆ以外のものなら何でも」
「了解」
鼻を鳴らすような高宮の返事を待って、私は電話を切り、机の上に置いた。
それから目覚ましを17時にセットし、頭から毛布をかぶった。
高宮が来たのはアラームで目覚めてから約20分後のことだった。
私は、寝起きのスウェットにジャージ姿で、寝癖をピンで数箇所とめて、アレンジ風にごまかすような格好で出迎えた。
「ハウスみかんと、グラタンと、オニオンスープ買ってきた。フライ、確かこれ好きだっただろ?」
「うん。よだれが出そう」
私は、手提げ袋を受け取ると、さっそくテーブルの上に並べ、両手をあわせた。
朝は、おかゆの残りと、冷蔵庫にあったプリンくらいしか口に入れていなかったので、お腹がペコペコだったのだ。
「だいぶよくなったみたいだな」
そんな私の様子を見て、高宮は、安心したようにいった。
「昨日から、ほとんどの時間寝ていたからね。どうやら回復力はあるみたい」
「でも樹は大丈夫っていってたのに、買い物から帰ったら熟睡してたぜ」
「熱が39度以上あって大丈夫なわけないだろ。気付かない高宮が鈍いんだよ。朝起きた時の私でさえ、まだ眩暈がしたんだから」
「そっか、悪かったな」
と高宮は、不器用な人がウインクしたときみたく顔半分をしかめた。
「私はともかくとして、どうなの、そっちの調子は」
「んー、まあまあかな」
「まあまあか」
「ああ。明日すべて終わらせるよ」
「明日?」
「明日だ。来週じゃ間に合わなくなる危険性があるからな」
「そうか」
と頷き、私は複雑な気持ちで黙々とスプーンを動かし続けた。
熱々のスープとグラタンを食べ終え、栄養が体に染み渡った頃、高宮が、何やら鞄をごそごそやって取り出したものを、テーブルの上に置いた。
「手紙を預ける。明日起きたら読んでくれ」
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