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第一話 悪夢の女性
身なりの良い二人組が、小さな街の門前で足を止めた。時刻は昼過ぎ、門は当然のごとく開いており、先程から何人もの人が行き来している。
二人は旅人であった。故郷にはしばらく戻っていない。もとより、何も残してきたものはないのだから戻る必要などなかった。
二人組の一人である長身の男は、細身だが丈夫そうな身体をしており、特に育ちが良さそうだ。肌は青みを帯びた白、髪は白銀の剣と比喩するにふさわしい輝く銀色のストレート。アルビノを連想してしまうほど纏う雰囲気全てが白に染まっているが、瞳の色だけは濃緑色であった。薄い唇は彼の薄幸を物語っているかのようで、瞳の奥には冷たい光を宿していた。年は恐らく、二十五前後。服装はカッターシャツに綿製のスボン、その上にかなり仕立ての良い焦げ茶色のトレンチコートを羽織っており、靴もしっかり磨かれていた。しかし全体的に高級感が漂っている割りに貴族のように煌びやかな装飾品は一切しておらず、地味な印象である。
傍にいるのはまだ幼さの残る顔をした、浅い茶と赤を濁したかのような色の髪を持つ少女だ。肩にかかる寸前で切り揃えられた髪は毛先が外側にはねており、憂いを帯びた濃紺色の瞳は常に鋭く何かを睨んでいた。肌は赤みを帯びた白で、線の細い身体や顔からはただ痩せているというより、不健康な印象を受けた。年は十二くらいだろうか。雰囲気はとても大人びていて、見た目との違和感を感じるほどだ。真っ白な立て襟のブラウスに細い臙脂色のリボン、柔らかな布で出来た焦げ茶色の膝丈ワンピースの裾にはフリルがあしらわれており、腰には革製の背中で編み上げられたコルセットをした姿で、一般的によく見かける街の裕福な娘の格好であった。しかし、男性のトレンチコートと類型のボレロを纏っているため、少し異彩な様相だ。また、かなり足に馴染んでいる様子のブーツは、街の舗装された道を歩くことを想定されて作られたにしては丈夫すぎるように見えた。頭にはリボンと同色のバンダナを巻いており、右サイドの前髪には金属製の細い髪留めを二つ重なるようにつけているが、髪色もあってか派手な印象はない。
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