パンダ課長

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*パンダ課長・2* 「城井(しろい)課長、この発注なんですけど、確認していただいても宜しいですか?」 「どれ?」 デスクワークをしていると、部下の渡辺優里(わたなべ ゆり)さんに声を掛けられた。 「これです」 今年入ってきたばかりの新人で、辿々しくも一生懸命な姿には好感が持てる。 「うん、これで大丈夫だよ」 渡された書類を確認して、デスク前に立つ渡辺さんに微笑み返すと、彼女はホッとした表情を浮かべた。 「ありがとうございます」 差し出した書類を受け取り、渡辺さんは自身の席へと戻って行く。 そんな後ろ姿を見送ると、再びパソコンに視線を戻した。 城井工業株式会社。 産業ロボットや、工場機械を扱う会社で、開発、営業、製造と多岐に渡る経営を展開している。 叔父さんが経営している会社で、購買部の課長を任されている僕は、本当は農家になる事が夢だった。 長閑な田舎で、野菜に囲まれ、のんびり暮らす。 そんな僕を心配した父が、叔父さんに相談した事がきっかけとなり、大学を卒業した後、この会社に就職する事が決まった。 元々、勇気も度胸もなかった僕に、厳格な父に反抗する根性など微塵もありはしなかった。
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