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「人の椅子、蹴らないでくれますかー?」
その声にハッとして、慌てて涙を手の平で拭いた。
顔がぐしゃぐしゃになってそうで、振りむけなかった。
中庭から入ってきたのかな、気付かなかった。
だけど、嵐の声に間違いはなくて。
「足長いから、当たっただけだよ」
「よく言うよ、俺より短いくせに。絶対蹴っただろ?」
足音とその声は、あたしに近付いてくる。
「蹴ってません。ていうか、なんでここにいるの?」
「さっきフラフラ歩くタマを見かけたから。迷子のタマを探しに?」
「あたしは、嵐の猫か」
そう言うと声も、足音も聞こえなくなった。
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