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秋という季節は、ひどく曖昧な季節だなぁ、と思う。
やれスポーツの秋だ、読書の秋だ、食欲の秋だと季節をごり押ししてくる割りには、気が付いたらいつの間にか過ぎ去ってしまっている。
日中、夏のように暑いかと思えば、日が沈めばびっくりするぐらい寒くなって。
自己主張の激しい蝉と違い、秋の虫はどこか遠慮がちに控えめな声で鳴く。
物悲しくて、侘しくて───あまり、好きな季節じゃない。
この日も昼間の暑さが嘘のように、夜は息が白むほど冷え込んでいた。
忍くんの家を出た瞬間、予想外の肌寒さに私は身を縮めた。
「寒い?」
そんな私の様子を見てか、忍くんがそう聞いてきた。
「え、あ……」
「待ってて。上着取ってくる」
靴を履きかけていた忍くんは、そう言うとまた家の中へと引き返していった。
それを見送ったあと、私はスマホを取り出して時間を確認する。
ここに来た時は9時前だったけど、今は10時を回っていた。
家に着くのは……11時になるかな。
スマホを仕舞ったところで、忍くんが上着を片手に戻ってきた。
靴を履き、ドアの鍵を閉める。
近いし一人で帰れると言ったのだけど、忍くんは送ると言って譲らなかった。
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