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それから家に着くまでの時間、私達は他愛ない会話を交わした。
お互いの仕事のこと、休日のこと……。
決して会話が弾んだとは言い難かったけど、7年ぶりに聞く彼の近況はそれなりに興味深くて、割りとあっという間に家までの時間は過ぎてしまった。
「………それじゃ、また来週の木曜日」
門の前で彼に向き直ると、彼は上着のポケットに手を突っ込んだまま小さく会釈をした。
「うん……それじゃ」
それだけを言い、彼はそのまま元来た道を戻ろうとした。
けれどそこで、思い直したように足を止める。
そうして、もう一度私の方に体ごと向き直った。
何度か躊躇うような仕草を見せたあと、最後に意を決したように彼は口を開いた。
「…………今日は、ありがとう。来てくれて」
びっくりした私は、何も言えずに忍くんの顔をただ見つめる。
すると忍くんはすぐに私から目を逸らし、体を反転させてしまった。
私はハッとして、慌てて忍くんの背中に声をかけた。
「お、おやすみ! 忍くん!」
つい大声になり、私は思わず右手で口元を押さえる。
忍くんはもう一度私を振り返り、今度は小さく微笑んだように見えた。
「─────おやすみ」
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