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短く言うと、彼はすぐに踵を返してスタスタと歩き始めてしまった。
私はその場に立ち尽くし、彼の後ろ姿を見送る。
忍くんが角を曲がって見えなくなったところで、私はハッと我に返った。
(上着……返し忘れちゃった……)
指の先まで隠してしまっている袖口に、私は黙って目を落とす。
そうして、忍くんと過ごしたこの数時間のことをぼんやりと思い返した。
不思議な、不思議な、夢のようにふわふわした2時間。
実際彼に会うまでは、透さんの影に押し潰されてしまいそうだったけど。
忍くんに会ってからは何だか驚きっぱなしで……透さんのことを思い出す間もないぐらいだった。
そして……まさかこんなにほっこりした気持ちで別れられるなんて。
────想像もしていなかった。
「………っ、くしゅっ」
急激に寒さに襲われて、私はぶるっと体を震わせた。
………ヤバい。風邪引いちゃう。
早く家に戻って……熱いおうどんでも作って食べよう。
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