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『____絶対戻ってくるから!』
目を瞑ると今でも思い出す。
親の転勤、というありきたりな理由であの地を去った。
未練が無かったと言えばウソになる。
あの小学校で卒業したかったし、いろんなイベントを体験したかった。
___一番辛かったのは、あの子との別れだ。
隣の家、とはいかないけど歩いて行ける距離に住んでいた彼。
名前はなんだったかなあ、優しくて口数が少ない子だった。
彼と私は同じ幼稚園では無かったが、気付いたら一緒に遊んでいた。
彼は泣き虫で、トカゲを見て悲鳴を上げては私がトカゲを撃退してたっけ。
彼との別れは本当に、本当に辛かった。
彼と離れるのが嫌で、最後の最後まで、両親に引き離されるまで彼と抱き合ってわんわん泣いていた。
『絶対戻ってくるから』。そう約束し、あの地を去った小学三年生の夏の思い出。
「夏樹ぃ離れたくないよぉー!」
「涼花、泣かないで。」
友人の泣き声で現実に連れ戻された。
涙を浮かべて別れを惜しむ友人を慰めながら私は少しばかり浮かれていた。
また転校するのは嫌だし、涼花と遊びたい気持ちは変わらないけど。
「行かなくちゃ。」
涼花に別れを告げ、車に乗り込む。
「…約束、覚えてるかな」
彼はどんな男子になっているのだろう。
相変わらず優しくてのほほんとしているのかな。
それとも、やんちゃになってたりして。
ふふ、とあの頃から成長した彼の姿を想像して口元を緩める。
…早く会いたいよ。
「_____和樹」
ようやく思い出した彼の名前を呟いて、私はそっと髪を撫ぜた。
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