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『____絶対戻ってくるから!』
そう彼女は言うと親に泣く泣く連れていかれた。
その時俺は必死にその親を、彼女を取り戻そうともがいたがこちらも同じく親に後ろから押さえつけられ彼女に触れる事すら許されずに俺達は離れ離れとなってしまったのだ。
そんな俺はもう受験生。
勉強の合間にそんな漫画に出てきそうな小学3年生の夏の日の出来事を思い出していた。
『絶対戻ってくるから』。
その言葉を信じて幼い俺は待ち続けたが進級するにつれ「そういや名前も顔も覚えてないじゃないか」という考えになり、待つことは愚か今の今まで忘れていたことに苦笑を漏らす。
ただ、彼女の墨を零したような黒く綺麗な髪と涙が夕焼けに照らされながら綺麗に輝いていたことと、最後に彼女を抱き締めた時香った甘い桃の香りは忘れられない。
それより先程から母さんの話し声が聞こえる。
なんだろうまた近所のおば様との無駄話に花を咲かせているのだろうか。
少しボリュームを小さくしてもらおうと口を開いた。
「?!」
下から甲高い声が聞こえた。
なんだ、こんな高い声はうちの親ではない。
そんな事を考えているうちにバタバタッと足音が聞こえあっという間に俺の部屋の扉が盛大に開かれた。
「_____戻ってきたよ!」
その言葉と共に俺に抱きついて来た少女は俺の胸に顔を埋めていてその顔を拝む事は出来なかったが、綺麗に手入れされた長い黒髪と微かに鼻腔をくすぐる桃の香りは、彼女だと確信させる材料としては十分だった。
『_____おかえり』
夏樹、
母さんへの文句の言葉は、彼女への歓迎の言葉に変わっていた。
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