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「………真白さんは、やっぱり本が好きだから今の仕事してるの?」 忍くんの声に思考を破られ、私はハッと顔を上げた。 考えごとをしている間に随分行程は進んでいて、さっき作った生地を忍くんは冷凍庫に仕舞ったところだった。 「え。やっぱり…って?」 「好きなんでしょ、本。……兄貴がよく話してた。真白さんと会ったのも、図書館だって…って」 ビクッ、と体が震える。 思わず持っていたカップをソーサーに戻して彼を見上げると、忍くんは冷蔵庫の前で、探るようにじっと私の顔を見つめていた。 前回は出なかった、透さんの話。 でも、いつかは絶対出てくるのが当たり前の話題で。 覚悟はしていたけど、いざ忍くんの口から透さんの話が出ると、心が震えた。 動揺を悟られないように、髪を耳にかけながら私は忍くんから目を逸らした。  
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