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マンションを見つめるように遠い目をしながら、忍くんはそう言った。
まるで全てを見透かしているような彼の言葉に、私の心臓は抉られたような感覚を覚えた。
「真白さんが新しい人を見つけて、幸せになることを……兄貴はきっと望んでる」
「……………」
「────俺は……そう思うよ」
それっきり忍くんは、マンションへ戻るまでの間、一度も言葉を発さなかった。
それに倣うように、私も口を閉ざす。
頬を刺すように秋の風は冷たくて……。
私は何だか泣きそうになってしまった。
忍くんはきっと、私の為を思って言ってくれたのだろう。
透さんのことは忘れて、新しい人生を歩んだほうがいい…って。
それが私の幸せなんだ…って。
でも───言わないでほしかった。
透さんとそっくりな顔で、新しい人を見つけろなんて……。
言わないでほしかった。
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