cinque-2

15/31
前へ
/31ページ
次へ
「大丈夫? 怪我でもしてんの?」 「……ううん、そうじゃないの」 凄く心配そうに聞かれて、私は笑いながら首を横に振った。 ………同時に。 ガラッと雰囲気が変わってしまったことに、私はどこかホッとしていた。 「気圧の関係でね、こんな天気の日は昔の傷が痛むの」 「……………」 忍くんが、息を飲むのがわかった。 さっきまでは何故か聞こえなくなっていた雨の音が、今は鮮明に聞こえてくる。 雷の音はいつしか遠くなっていて、僅かな光すら部屋に射さなくなった。 「………それってもしかして……7年前の、あの事故の……?」 「……………」 何も答えられず、唇を噛む。 事故のことを思い出すのも嫌だったし、透さんの話になるのも嫌だった。 見えないとは思いつつ、私は笑顔を作って懸命に明るい声を出した。 「あ、でもね。普段の生活には全然影響ないんだよ? 雨の日にちょっと痛むぐらいで」 「……………」 「ホントに全然、大丈夫だから」   
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

363人が本棚に入れています
本棚に追加