cinque-2

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「………………」 雨の音が、すごく優しくなった気がした。 小降りになったからなのか……私の気持ちが落ち着いたからなのか。 さっきは抱きしめられる、と思っただけで、心臓がひっくり返りそうなぐらいドキドキしたけど。 今は何だか、すごく安心して忍くんの腕の中にいることができた。 何だろう。 子供の頃迷子になって、泣きながら歩いていたところにお母さん達が迎えに来てくれた時みたいな……。 そんな気持ちに似てる。 長い長い時間、出口のない迷路でさ迷っていた私を……忍くんが探し出してくれたみたいな──。 「忍くん……いい匂いがするね」 ようやく涙が止まった私は、スンッと鼻を啜りながら長い沈黙を破った。 ピクッと忍くんの体が反応して、ゆっくりと私の体を引き離す。 「え?」 「んっとね……ドルチェみたいな、甘い匂い」  
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