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すると忍くんは私の背中に回していた腕をほどき、顔を腕に近付けたようだった。
「マジで? 俺さっきから、マニキュアの匂いしかしないんだけど」
「……ふふっ」
不快そうな忍くんの声を聞いて、私は涙を拭いながら笑ってしまった。
確かに、人間て五感の一つが絶たれると他が敏感になるのか、暗くなってから特にマニキュアのあの独特な匂いが強くなった気がする。
そう思ったその時。
パチッと何かが弾ける音がしたかと思うと、室内の明かりが明滅しながら灯った。
ありとあらゆる電化製品が、一斉に動き出す音がする。
暗さに慣れてしまっていた目に電気の光が眩しくて、私は思わず目を細めた。
「あ……点いた」
ホッとしたように呟き、忍くんが天井を仰ぐ。
「結構長かったね……」
「うん」
直後忍くんが、ふっと私の顔を見下ろした。
まるで抱き合うようにお互いの体に手を回していた私達は、ものすごく近い距離で見つめ合う形となった。
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